台詞を躍動させたい
踊るように展開する台詞が書きたい。
脚本を書き始めるといつもそう思う。
二人の登場人物がいるとする。その二人に対話をさせるのだが、どうにも会話が踊らない。
A「あのさ」
B「何」
A「今日はいい天気だね」
B「そうだね」
A「せっかくいい天気だからおでかけしたいね」
B「どこか行きたいところがあるの?」
A「海を見に行きたいな」
B「海へ行くにはまだ寒いよ」
A「でも春の海は好きなんだ」
B「なんで」
A「高校の卒業式の後、友達と海を見に行ったの。それを思い出すからかな」
B「いい思い出があるんだ」
A「うん」
なんだかとてもダラダラしている。おまけに登場人物の個性も感じられない。自分たちの日常の会話では、よくある光景かもしれない。普段からドラマチックな会話をしている人などほとんどいないだろう。しかし私が書いているのは脚本である。ドラマを作っているのだ。あえて日常の雰囲気を出そうという場合は別として、お客さんを惹きつけるには台詞が踊ってなければダメだ。
ところが、いざ書き始めると踊らない日常会話のような台詞を延々と続けてしまうのはよくあることだ。自分で書いたものを読んでいて眠くなるようなら最悪だ。
他の脚本家の方たちのことは分からない。私の場合だけかもしれないが、この踊らない会話をいかにして躍動させるかを考えるのが、推敲の第一段階であったりする。
A「いい天気だね」
B「今日は仕事休みだろ。なら一緒にどこか出かけようか」
A「え、でも」
B「俺、車を買い替えたんだ。もしよかったら、初ドライブ、付き合ってよ」
A「うーん、なら、海に行きたいかな」
B「海か。でもまだ3月だよ」
A「私、春の海が好きなんだ」
B「何か思い出でもあるの?」
A「高校の卒業式の後、友達と海を見に行ったの」
B「友達」
A「砂浜でみんなではしゃいで。楽しかったな」
B「きっとそこにはあいつも居たんだね」
A「え」
B「Aちゃん、まだあいつのこと、忘れられないんだ」
少しはドラマになってきただろうか。Aに対するBの感情が分かるようにしてみたつもりだが。
Bをもっと個性的にしてみたらどうだろう。
A「いい天気だね」
B「今日は西から高気圧がせり出してきて一日晴れが続くんだ。出かけるにはいい日だと思うよ」
A「そうか。それじゃあドライブ日和だね」
B「ドライブ。いいね。この時期の晴れは花粉や黄砂が多いのが悩みの種だけど、ドライブならそういうものも気にならない」
A「B君、運転は大丈夫?」
B「大丈夫。むかし、桜前線を追いかけて日本縦断したこともある」
A「何それ。面白いね」
B「Aさんはどこか行きたいところはあるの」
A「うーん、なら、海に行きたいかな」
B「海か。花粉の影響は少ないね」
A「私、春の海が好きなんだ」
B「春の海に何か思い出が?」
A「高校の卒業式の後、友達と海を見に行ったの」
B「高校の……それはもしかして」
A「砂浜でみんなではしゃいで。楽しかったな。あれ、B君、どうしたの涙が出てるよ」
B「いや、何でもないよ。この辺りは花粉が多いんだね。はやく車に乗ろう」
何か変な方向に行ってしまったかもしれないけれど、個性的な会話にはなってきた。
本当に才能のある脚本家さんなら、こんな悩みを持たずに躍動する台詞を展開させることくらい当たり前にできるのだろうか。
とにかく凡人の私は、踊らない日常会話を書き出して、それをいかにドラマのある会話に変えていくかを日々考えるのである。
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