雨月物語に材を取った脚本「辰巳ヶ淵」
その年、劇団から受けた執筆のオファーは「雨月物語」のなかの一編を原作にした物語を考えてほしいというものでした。その原作の一編を読んだ私は、このストーリーのままでは劇団のイメージに合わないと思いました。どうすれば劇団に満足してもらえる物語になるか。試行錯誤の末に生まれた脚本が「辰巳ヶ淵」です。
上田秋成の怪異譚集「雨月物語」
雨月物語は江戸時代の作家上田秋成によって書かれた9編の短編からなる怪異物語集です。1953年、溝口健二監督は、9編のうちの2編を脚色して、映画「雨月物語」を製作しています。
私がオファーを受けたのは、溝口監督が映画の題材にした2編のうちの1編「蛇性の婬」を題材にした朗読劇の脚本を書いてほしいというものでした。この原作を読んで私は戸惑いました。この話はタイトルの通り、蛇の化身にたぶらかされる男の物語でした。内容的にエロティシズムな一面も含まれています。オファーしてくれた劇団の構成メンバーは9割が女性でしたし、彼女たちが淫靡な物語を好むとはとても思えませんでした。なんでこの物語を選んだのかわかりませんでしたが、原作を素直に脚本にするのは憚られました。
どうにかこの物語を脚色しなければならない。私はそう考えました。
劇団のカラーに合った物語を考える
女性がメインの劇団にふさわしい物語にする。普段から優しい物語を演じることが多い劇団なので、淫靡、怪異の要素は薄めて、幻想的な純愛の物語に変えてみよう。私はそう考えました。
雨月物語の世界観は残したいので舞台は江戸時代のとある山国に設定し、修行僧が謎の女性と恋に落ちる物語を考えました。それを昔話風に語り進める脚本を書いてみたのです。そうして生まれたのが朗読劇「辰巳ヶ淵」です。
御伽噺風に仕立てた物語「辰巳ヶ淵」
昔々のはなし
修行僧の朱雀丸は、師の和尚と二人で熊野へ向かっていた。大和の国に近い山の中を歩いていた時、朱雀丸は誤って谷底へ落ち、気を失ってしまう。目覚めると朱雀丸は小さな家の中に居た。彼を助けたのはセナという美しい娘だった。
一方、和尚は朱雀丸を助けるため、山の麓の村で村人に協力を求めていた。しかし、村人は誰も山に入りたがらない。理由を尋ねると、その山には蛇の化け物が住んでいるという。しかもその化け物は人間の娘に化け、山に入った人間をたぶらかして食べてしまうのだと。
謎の女性セナに恋をしてしまった修行僧朱雀丸の運命は。
この脚本の一部はwebサイトで試読ができます。興味ある方は是非ご覧ください。
