ト書きの無い脚本

私が普段書いているのは朗読劇の脚本だ。

朗読劇は舞台に立った演者が台本を手に、声で芝居をする。
ときには身振りを入れたりもするが、基本的には演者の声と効果音で芝居が構成される。
だから朗読劇はラジオドラマに通じるものがある。
それで私は、ラジオドラマの脚本と同じ作法で朗読劇の脚本を書いている。

ラジオドラマの脚本には「ト書き」が無い。
ト書きとは、役者の動きや、場所の情景などについての説明書きで、テレビドラマや映画、一般的な演劇の脚本には必ず書かれている。たとえばこういう感じ。

  

〇オフィス街

夜。雨が降っている。男Aがうつむいてい歩いている。傘は差さず、ダウンジャケットのフードを深く被っている。重い足取り。立ち止まる。

男A「腹が減った」

  

上の『夜。……』という箇所がト書き。ちなみに『〇オフィス街』という場面設定の箇所は「柱」という。

ラジオドラマには映像が無い。だから場面や役者の動きを指示するト書きは要らない。書いたとしても使えない。朗読劇の場合は視覚的な演出が使われることもあるが、私が普段脚本を提供している劇団は声と音だけで演出するので、脚本にはト書きを入れない。
このト書きを使わない=映像が無い という制約は、ときには苦労でもあり、時には朗読劇の脚本を書く醍醐味でもある。つまり、お客さんが目を閉じて、音だけの世界でも楽しめる物語を作らなければならないのだ。
映像で見せることができない分、つい説明的な台詞を入れたくなるが、そういう台詞が多すぎると芝居がつまらないものになってしまう。会話だけで物語を成立させるのはなかなかに難しい。しかしその難しさが、朗読劇の脚本を書く楽しさだとも思う。

聴覚だけに訴えるラジオドラマや朗読劇。聞く人の心を動かせる脚本を書けるように、日々努力したいと思っている。