家庭防空壕に残された古い手紙の謎 / 朗読劇「記憶-五条坂の手紙」の紹介

直子は建築史を研究する大学教授。祖父母の法事のため、京都五条坂の実家に久しぶりに帰ってきた。母と会話している最中、直子は台所の床に嵌められた大きな板蓋に目を止める。

「この家の床下収納ってメッチャ大きいな」

子供の頃から気になっていた床の羽目板を眺めて直子が何気なくつぶやくと、母はお茶を入れながらサラリと言葉を返した。

「それは収納やないで。防空壕や」

「防空壕」

思いもよらなかった答えに直子は興味を掻き立てられる。

実家の地下に防空壕があるなどとは思ってもいなかった直子。建築学に携わる者としてその中がどうなっているのか気になって仕方ない。直子は床板を外して防空壕の中を懐中電灯で照らして覗き込む。コンクリート製の階段が人の背丈より少し深いところまで伸びている。階段を下りてみると、そこは三畳ほどの広さの地下室になっていた。直子はブロックで固められた壁を懐中電灯でくまなく眺める。そして壁の片隅に小さな箱が残されているのを見つける。その箱を開けてみると、中には古い手紙が入っていた。

「どうぞご無事で帰ってきてください。はりまや橋で待っています」

ラブレターのようなその手紙は、直子の祖父高志に宛てられたものだった。差出人は不明。祖母から祖父へ送られたものではなさそうだ。誰が祖父に送った手紙なのか。直子は差出人を突き止めるべく、かつて五条坂で暮らしていた人たちの足跡を辿っていく。そして手紙の謎が少しずつ明らかになるにつれ、直子の知らなかった祖父と祖母の戦争の記憶が明らかになっていく。

「記憶-五条坂の手紙」は、家庭用防空壕に残された手紙に秘められた祖父母の過去を紐解いていく物語だ。

私は五条坂に残っている防空壕を実際に見せてもらったことから、この物語の着想を得た。戦前の日本では、民家の床下に防空壕(待避壕)を造ることが奨励されていた、あるいは義務付けられていたらしい。私が見た防空壕は壁をブロックで固めたしっかりとした地下室になっていたが、家によっては床下に人がしゃがんで隠れるくらいの小さな穴を掘っただけの防空壕もあったようだ。

脚本を書き上げた今も、私は防空壕のことが気になっている。防空壕のことをもっと知れば、戦時中の銃後の暮らしのことが何か分かるのではないかと感じている。だから、防空壕についてこれからも調べてみようと考えている。

太平洋戦争期の暮らしを題材にした脚本をずっと書いてきたせいだろうか。日本が体験した戦争のことに関心が向かう。でも深く立ち入る勇気はない。私にできることといえば本当に断片的な記録や痕跡を辿ることだけだ。ただ知りたい。なぜそう思うのかはっきりと答えることはできないのだけれど。

戦前はまだそれほど遠い過去ではないはずなのに、知らないことは山のようにある。 だから、気になることを少しずつ追いかけようと思う。まずは防空壕のことを調べてみる。調べたことは、今後もこのホームページのブログに少しずつ紹介していこうと思う。

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